もうひとつの前書き

 本書は、ブログやFacebookTwitterなど、ソーシャルメディアに特化した文章術の本です。一般的に、ビジネス文書などの文章術本では、文法や論理の流れが中心です。

 しかし、この本では細かい「てにをは」よりも「伝えたい人に伝わる」文章の書き方や、文を書くまでの考え方に力点を置いています。

 

◆「伝えたい人」。あなたにも、いますよね。

 それが、1人でも、1000人でも、伝えることの基本は同じです。そこに「共感性」があるかどうか。「そういえばね」と隣の大切な人にさらに教えてあげたくなるかどうか。

 そこから、「いいね!」の波紋が広がっていくのです。そんな波紋を起こせるような小さくてもキラリと光る石を、どんな風にして見つければいいでしょうか。


 一番大事にしたいのは、そのことです。

「どう書くか」以上に「何を書くか」という発想。

そして「誰が書くか」という視点。

そして文字を綴る上での、生命線が「共感性」なのです。


 さらに、日々発信するなかで心がけたいのが「ブレないこと」。つまり、信頼性です。この「共感性」と「信頼性」が、ソーシャルメディア時代の最も根幹となる二大要素です。

 

◆ここでちょっと、『北風と太陽』の話をしましょう。

 実は、この物語に私は以前からささやかな違和感を持っています。なぜなら、北風も太陽も、小さなことから争い、コートを着ている旅人の気持ちなどおかまいなしだからです。

 旅人が一番快適なのはどんな状態だろうか。旅の途中なら、コートを脱いでは、かえって荷物になります。旅人がうれしいのは、風もなく、太陽もなく、コートを着ていてちょうどいい肌寒いくらいの気温でしょう。

 もし、この話に続きをつくるとしたら、私は、雲を呼んできます。そして、北風と太陽に「せめて旅人がこの道を行き過ぎる間、君らは隠れておいてくれ」と、雲から説得してもらいます。

「ああ、やっと太陽が隠れた。助かった。重いコートが荷物になるところだったよ。雲よ、ありがとう」。旅人はきっと感謝します。

 そんな風に相手に関心を寄せたとき、初めて「共感と信頼」の扉が開かれるだろうと考えるのです。

 伝えるだけでなく、伝わる・つながる。求められていることは何か。あちらからもこちらからも、流れてくる無数の言葉でできた文脈をじっくり確かめながら、一緒に書いていきましょう。使うべき言葉を選び、伝えたい人を思い浮かべ、メッセージを織り上げていきましょう。

 言葉と言葉が響き合い、人と人を出会わせ、共感と信頼でつながる──そんな時代にたまたま居合わせた私たち。本書では、その無数の可能性のなかから、望む出会いを引き寄せるための言葉の選び方や文章を書く姿勢についても述べています。

 

ツールやメディアが変わってもブレない文章力を身につけましょう。

 これからも、時代はどんどん変わっていきます。FacebookTwitter以外にも、新しいメディアが次々に現れています。端末もさらに進化し、スマートフォンもやがて新しい端末に取って代わられるのでしょう。「今でもついていくのがやっとなのに」。そんなため息があちこちで聞こえてきそうです。

 けれど、大丈夫。どんなに新しいシステムやツールが生まれようと、時代が変わろうと、情報を入出力するフィルターは、私たち「人」のなかにあります。日頃から五感を鍛え、大切な相手と「共感性」と「信頼性」を育むことができれば、不安を持つ必要も、あせることもありません。時代を俯瞰し、独自の価値を高め、必要とする人にそれを届ければいいだけです。

 本書では、そんなブレない考え方と文章の書き方について書きました。ソーシャルメディアは初めてという方はもちろん、長く使っているけれど今ひとつ方向性が定まらないという方、次々と出てくるシステムやツールに左右されたくない方、そして自分の強みを磨いて仕事やブランディングで活用したい方にも、この本がお役に立つようにと願っています。